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Ep.2 貴族学院

Author: シエル
last update Petsa ng paglalathala: 2026-06-16 06:57:40

──────貴族学院。

リヒテンシュタイン帝国の皇族・貴族子女は十五歳から十八歳の四年間、必ず帝都にある貴族学院に通わなければならない。

それは教養の他、交友関係を広げることや婚約者探しという理由もあるが、最も重要なのは『魔法』をきちんと身に付けさせる為だ。

『学びの為の貴賤は問わず』という学院理念により、割合は少ないが一部魔力がある者や優秀な平民も特待生として通っている。

現在三年生の俺も例外なく通っており、学院では幼い頃から側近候補として交流がある第一皇子のレイルが会長を務める生徒会の、二人いる副会長の一人として活動している。

生徒会長であるレイル・オブ・リヒテンシュタイン第一皇子。

同じく副会長であるカスティエール公爵家嫡男のダリウス・フォン・カスティエール。

そして、会計のモンタギュー商会長嫡男のアーサン・モンタギュー。

書記は令嬢の為、学院内では大体はこの三人と行動することが多い。

「きゃっ!」

昼食を食べる為に、いつもの四人で食堂《ダイニング・ホール》へ移動している時だった。

その声の方へ視線を向けると、廊下のど真ん中で一人の令嬢が座り込んでいるのが見えた。

そして……その令嬢の前に立っているのは生徒会書記であるマルガレーテ・フォン・ローゼンベルク公爵令嬢────共に副会長を務めているダリウスの婚約者でもあり、俺とレイルも幼い頃から交流がある。

レイルと顔を見合わせ、いざという時の仲裁に入れるように彼女たちの傍まで移動した。

栗色の少しウェーブがかった長い髪────ブライトン伯爵令嬢であるアメリア嬢だと、後ろ姿だけですぐに分かった。

(はぁ、またか……)

ブライトン伯爵令嬢とマルガレーテ嬢はここ数ヵ月の間、このようなトラブルが絶えない。

「す、すみません……」

「アメリア・フォン・ブライトン伯爵令嬢……一体、何に対して謝罪されていらっしゃるのかしら?」

マルガレーテ嬢はそう告げると、目を細め扇子を開き口元を隠した。

その様子にブライトン伯爵令嬢はビクッと肩を震わせ、体を小さく縮こまらせてしまった。

ピンクブラウンの瞳には大粒の涙が浮かんでいる。

この庇護欲を唆る雰囲気に、周囲には眉尻を下げて同情する者も少なくなさそうだ。

マルガレーテ嬢の綺麗に巻かれた鮮やかな赤い色の髪や、釣り目気味な金色の瞳がキツく見えやすいうえ、令嬢にしては少し身長も高い。

更に彼女は公爵令嬢としてのプライドも高く、他者に威圧感を与えやすいのだ。

それ故、誤解されやすいタイプでもある。

だが長い付き合いの俺には分かる。

マルガレーテ嬢は怒っているわけではなく、ただ純粋に彼女の言動が貴族として理解出来ないのだ。

「わ、わざとじゃないんです……。 少し急いでいたのですが……その、マルガレーテ様の足に引っかかってしまって……」

「それはわたくしが、わざとあなたを転ばせた……と仰りたいのかしら?」

『不快である』と言わんばかりに、マルガレーテ嬢は射抜くような視線を彼女へ向けた。

周囲からはひそひそと囁き声が漏れ始め、明らかにマルガレーテ嬢を『悪者』として見なす空気が漂い始めていた。

(まずいな……)

このままでは収拾が付かなくなる。

そう思った矢先────。

「マルガレーテ! そこまでだ!」

先ほどまで隣にいたはずのダリウスが、突然大声を上げたかと思えば、いつの間にかブライトン伯爵令嬢の傍へ駆け寄っていた。

「ダリウス様……」

彼女のうるうるとしたピンクブラウンの瞳を見た瞬間、ダリウスは苦虫を噛み潰したように顔を歪ませ、マルガレーテ嬢を睨みつけた。

「……こんな大勢の人の前で一人の令嬢を貶めるなど、高位貴族として恥ずかしくないのか? わざとではないと謝罪をしているのだから受け取ればいいだけの話だ。 それに、転んだ人に手も貸さないなど……」

「ご機嫌よう、ダリウス様。 いつからご覧になっていたのか存じませんが、わたくしは別に怒っているわけじゃございませんのよ?」

マルガレーテ嬢はダリウスが間に入って来たのを見て、扇子をパチンと音を鳴らしながら閉じると、貴族令嬢らしくカーテシーを披露した後で淡々と話し始めた。

「そもそも、友人たちと歩いておりましたら、彼女がいきなり後ろから走ってきて目の前で転ばれたんですもの……何事かと驚きましたわ。……かと思えば、いきなり涙目で謝罪をされましたので『一体、何に対して謝罪されていらっしゃるのか?』とお聞きしただけですわ。 わたくしのどこかに非がございまして?」

……言い返す言葉もないだろうに、それでもダリウスは瞳に怒りを滲ませたまま、マルガレーテ嬢を更に睨み付けている。

その瞬間────パン!と大きく手を叩く音がすると同時に、すべての視線が俺の隣に注がれた。

「とりあえず、ここまでにしようか? 貴重な昼休みの時間が減って昼食が食べられなくなってしまうし、いつまでも廊下を塞ぐわけにはいかないからね」

レイルがにこにこと人当たりのいい笑みを浮かべ、その場にいた生徒たちやマルガレーテ嬢たちを解散させる。

そして足を痛めたというブライトン伯爵令嬢を、ダリウスが保健室まで付き添うことで何とか場を収めることが出来た。

(……ダリウスの奴、何を考えているんだ?)

婚約者であるマルガレーテ嬢を差し置いて、ブライトン伯爵令嬢に肩入れし続ければどうなるか…………考えたくもない。

「……何だか、嫌な予感がするなあ……」

(はぁ、まったくだ……)

レイルがボソッと小さく呟くのが聞こえ、改めて食堂へ移動を始めた。

その後に続こうとした時────何かが引っかかった。

勢い良く振り返り廊下内を隅々まで見回すが、特に異変はない……。

(気の、せいか……)

だが、ごく最近、同じような感覚を覚えたことがある……そのせいで過敏になっているだけだろうか?

「セドリック? どうしたんだい?」

俺が着いて来ていないことに気付いたレイルたちの声に返事をすると、その場を後にした。

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